2022年11月1日
IPRとは、Inter Proximal Reduction(インタープロキシマルリダクション)の略で、生活に影響の及ばない範囲で歯の隣接面(側面)を薄く削る処置です。ワイヤー矯正、マウスピース矯正、セラミック矯正に関わらず一般的な成人の歯科矯正で行われます。
歯と歯の間にIPR専用の器具を入れてヤスリがけをする要領で歯の側面を削り隙間を作ります。
IPRで削るのは歯の側面のエナメル質の部分になります。
エナメル質の厚みが2〜3mmなのに対し、0.25mmを限度にして削る処置です。
とされていますが本当のそれで良いのでしょうか?
一般的に1本の歯の片側に対するIPRは0.25mmまでOKという基準が一般的なのですが、私はそうではないと思います。
同じ人でも上顎1番と下顎の1番では歯のサイズに大きな違いがあります。
さらに歯の形態にも着目すると、0.25mmまでOKとは言えません。歯の形、歯の見え方、重なり合った歯をまっすぐ並べると必ず生じるブラックトライアングルの処置などを考慮しながら歯の配列をデザインするとそうはならないことが多いです。
特に下顎前歯のIPRや、元々の歯の形が縦長のケースのIPR量は特に注意が必要です。
IPRをした範囲がエナメル質の範囲であっても、隣の歯と歯根がぶつかっていると歯は動きませんし、歯と歯が近接しすぎると歯槽骨の頂きが吸収してしまいます。歯根の形態を読み間違えるとIPRで作った隙間が埋まらない原因となることも。歯冠と歯根の移行部の形態を確認したり、歯頚部の形態や切縁の形態をよく観察して、IPR後もなるべく自然で美しい歯に見えるよう処理することも大切です。IPRは繊細な処置ですので丁寧に行うと時間がかかります。使用する器具も数種類必要です。
他院で矯正後の患者さんが時々いらっしゃいます。
その際、もう少し綺麗に並べたい、隙間を埋めたいというリクエストをいただきます。その時少々困ることがあります。
過去にIPRをされていて、形態不良になっているケースです。歯根形態の読み間違いによる削りすぎ。この場合、美しく仕上げるには矯正だけでなくセラミック修復も併用しなければならないからです。前歯の噛み合わせを観察すると、下顎前歯の圧下を必要とするケースが多いのですが、相対的な圧下をした方が唇舌方向の歯軸が下顎が運動した時の方向にリエゾンさせやすい。そういうケースにおいてIPRされすぎていると両サイドの歯とうまく接触できずブラックトライアングルとは別の見栄えの悪い隙間ができたり、
やむを得ず形態修正したものの馬の前歯のようになってしまうことがしばしば起こります。
下の写真は
①縦にとても長い
②切縁がすり減って平坦
③歯の縁が四角い
④綺麗に並んでいる
馬の前歯です。
茶色い馬の右上1番には少々捻転と重なりがありますね。
①〜④と同じ理由で馬の歯のように見えるセラミッククラウンを時々見かけます。さらに透明感がなく真っ白だと少々不自然な色です。(一部の芸能人の歯など)
しかし、それも美的センスは個人差がつきもの。それぞれが求める色や形を作ることができるのもセラミック治療の特徴です。骨格の問題や歯数の問題、生活サイクルや就業内容によってはどうしてもワイヤーやマウスピースの矯正を選べない場合もあります。
セラミッククラウンの場合、歯冠の縦の幅と横の幅、それをカムフラージュする切縁や表面の繊細な凹凸、色調のグラデーションなどで不利な形態をカバーします。技工士の腕にもよります。技工士の腕を引き出すための計算された丁寧で正確な支台歯形成も必須です。
矯正のみで歯を整える場合、IPR後の歯が馬の歯のような形になっていると歯の形は自然な形にはなかなか戻らない。
切縁の形を少し形態修正すると見栄えを回復できるケースもあります。
インビザラインなどの治療計画で歯を移動させるためのスペース確保の手段として唇側へフレアさせる量やIPR量を決める際に、骨の幅や歯根の向きを確認します。IPRをはじめから多く入れすぎてしまうと特に下顎の前歯はブラックトライアングルの修正時にIPRが使えないなんてことも。なるべく少ない量のIPRで歯の移動をおさめたいものですね。そのためには遠心移動という手段も選択します。遠心移動は時間がかかるのであらかじめ初診時に説明が必要です。
遠心移動や大臼歯の移動にとても邪魔なもの。
それは親知らずです。
親知らずは矯正しない人でも抜歯をしておいた方がいいケースがほとんどです。矯正するなら術前に抜歯しておくことが大切ですが、嫌われたくないがために『抜歯しなくてもいいよ』と上手に契約してしまう先生や(←結局歯が動かないので、のちに抜歯となっている)、自分が抜歯を苦手とするあまり抜歯をしない方向へついクロージングしてしまう癖があることも。専門である口腔外科へ紹介状を作成し抜歯を依頼すれば済むことです。
全て拡大や遠心移動、IPRで完結できる症例か、そうでない症例かは患者さんの希望を確認しつつ現実的な方法を提案し、それでもすり合わせが困難な場合は無理に契約するのではなく、やんわり手を引くのが良いと思っています。
上の写真は他院で矯正歴のある方の初診時のレントゲンに作画したもの。下は同じ症例のアタッチメントがついたままの初診時の正面観写真。(デジタル一眼レフカメラで撮影)
↓デジタル一眼レフカメラで撮影した舌側面の写真をコピー紙に印刷し考察中のデザイン
↓既存のアタッチメントを外し、クリーニング終了直後。
ホワイトニングはまだ行われていない。
上下左右の前歯、小臼歯、大臼歯、各々の歯が許容できるIPR量はこのケースにおいてはほぼ0の状態で来院されました。
親知らず抜歯と空隙閉鎖のために必要な歯の移動を作戦立て、その中に歯冠修復を何で行うかを念頭に置いて歯の移動量を決定する必要があります。その際にデッサンは重要かと。
綺麗に仕上げるには時間もコストもかかるということです。
IPRは切削器具で絵を描くことと似ているので、下書きをしておくとクリンチェック(インビザラインの治療計画の名称)などの治療計画を作成したり、IPR施術時に役に立ちます。
大手法人での勤務医時代、いつも思っていたことがあります。
(どうして自分で見切れない数の患者を取ろうとするのだろう?)
治療計画を作成して本人はほとんど現場に現れない。他の歯科医師や衛生士に処置を丸投げで毎回担当が異なる。ですから他の先生が症例検討のためのデッサンや、治療計画を作成したり見直しする場面を見たことはありません。そもそもそこまでしなくても大丈夫な簡単なケースも多いと思います。
当院では1日に診れる患者数は診療内容にもよりますが4〜8名です。(※ホワイトニングを除く)
初診時は対話に時間を要することが多いので時間を多めに取ります。診療終了後の時間に宿題のような仕事があるからです。
遅刻、リスケ、キャンセルが頻繁にある方は同じ時間に他の方の予約を入れさせていただくこともあります。
施術の質や患者さんやお客様との対話(ヒアリング)を大切に行おうとすると1日に何人も予約を取ることはできないです。
保険診療で行う施術は別のスキルだと思っています。使用できる材料や方法も限られていますし、保険診療特有のルールがありその通りに診療を行うことが求められます。何より受診されるご本人のモチベーションは大きく異なります。提供する側、される側の温度感が異なると、なんでもうまくいかないものです。
自費診療でないと解決できないケースの方が本当は多いのかもしれません。虫歯も歯周病も口腔ケアができていればそこまでひどくはならないもので、粗末にするから悪くなるんです。
健康保険の財源は限りあるもの。歯を粗末に扱う方の過剰な受診や財源の浪費を見逃せないですし、保険診療の規則が厳しくなることや、特に海外で歯科は保険外なのはそのためです。
下の写真は、初診時〜非抜歯で並べた後、『左右1番の切縁のキザギザを真っ直ぐにしてほしい』というリクエストに応じたものです。個人的には2番の隅角に少し丸みをつけてもいいかと思うものの、美的感覚には個人差があるので好みに合わせてリシェイピングすることにしています。アイキャッチ画像はこの症例の写真を術後にデッサンし、歯頚部の湾曲の比率や2番に丸みを持たせたり、歯頚部の湾曲の部分と実際の歯冠の縦の比率を考察したりして次の診療やカウンセリングに活かしています。
実際には見た目だけではなく対合歯との被蓋の量や運動時の方向によって生じるフレミタスを逃がすための角度も計算する必要があります。
<初診時>当時の勤務先で使用していたカメラが異なるので色が暗い(デジタル一眼レフではないカメラだった)
たかがIPR、されどIPR。。。
道具選びはとても重要です。ハンドピース選びはユニットの組み合わせで性能が大きく変化することを踏まえて選ぶ。
全て繊細な消耗品です。
開業時にどのユニット(歯科治療用の患者施術用椅子)を選ぶかで精密な作業がどのレベルで行うことができるのかが大きく決まってしまいますね。当院はドイツのKAVO社のフライングアームユニットを選びました。
①安定したトルクコントロール
精密で繊細な作業に欠かせないモーターの性能
②水消毒システム
コップに提供する水、歯の切削時に生じる熱の冷却用注水の衛生管理に重要な機能です。
切削時のサックバック(患者の口の中の唾液、血液、削りかすなどがユニット回路内に吸い込まれること)で回路内が汚染されることなく常時ユニット内の回路が消毒されています。
③エルゴノミクス
④ユニット周辺の掃除のしやすさ
⑤省スペース
IPR時にも注水とトルクコントロールを行なっています。
お水がはねてしまうこともあります。
切削時の摩擦熱による痛みを抑えるためなので、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
当院では、患者さんが抱えていらっしゃるお口のお悩みや疑問・不安などにお応えする機会を設けております。どんなことでも構いませんので、私たちにお話ししていただけたらと思います。
ご興味がある方は下記からお問い合わせください。
※自動音声でのご案内となります
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